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2020.04.01更新

1 多摩川からの逆流による浸水被害

 2019年10月12日、日本列島を襲った台風19号は、多摩川沿いに沿って南北に長い川崎市にも大きな浸水被害をもたらした。市内の住家被害は、全壊38件、半壊941件、一部損壊167件、床上浸水1198件、床下浸水379件に及んだ。市内の浸水被害の多くは、市内から多摩川へ注ぐ5か所の排水樋管のゲートが閉じられなかったため、台風によって高水位に達した多摩川から市街地へ逆流した泥水が原因で、110haもの広範な地域を浸水させた。排水樋管のゲート開閉の管理をしていたのは川崎市当局である。市当局が排水樋管のゲートを閉じていれば、多摩川からの逆流による被害は生じなかったであり、市は責任を問われうる立場にある。

2 川崎市の不合理な排水樋管のゲート操作

 川崎市当局は、台風直後の市民に対する説明会から一貫して、排水樋管のゲートを閉鎖しなかったのは、市の策定したゲート操作手順書に従ったもので、問題なかったと説明してきた。しかし、そもそも、川崎市の各排水樋管操作要項では、樋管のゲート操作は逆流防止を目的としている。当時、台風の関東地方接近によって多摩川の水位の上昇と逆流の発生は予見でき、現に、川崎市当局は多摩川の水位上昇による逆流の発生を確認していた。それにもかかわらずゲートを閉じなかった判断はあまりに不合理で、被災者には到底納得できない説明であった。「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」を立ち上げ、市に対して第三者検証委員会による原因究明と、賠償、再発防止を求めて活動をしている。

3 第三者不在の検証委員会の設置と自己弁護の検証結果

 これに対して、川崎市は、第三者委員会を設置せず、副市長を委員長とする行政内部で検証委員会を立ち上げ検証を開始した。賠償責任を負う可能性のある一方当事者の川崎市が主体となった自己検証によっては、公正な検証がなされるかはなはだ疑問であった。神奈川県弁護士会等の法律家団体も、川崎市に対して、改めて第三者検証委員会を設置などを求める要望を発表したが、結局、川崎市はこれに応じないまま、本年3月に発表した検証結果では、自らの責任を免れる結論に導こうとしている。

4 逆流防止の目的を見失っていた排水樋管ゲートの操作手順書

  そもそも、逆流防止のために設置された排水樋管のゲートが、なぜ今回現に逆流発生時に閉鎖されなかったのか。それは、ゲートの操作手順書が、川崎市内に「降雨または降雨の恐れのある場合はゲート全開を維持する」ことを前提としていたからである。この規定は、排水樋管のゲートを閉じると市街地に降った雨が多摩川に排出できなくなり、過去に内水氾濫を起こしたことから設けられた経緯がある。しかし、これでは、今回のように多摩川の水位が上昇し市街地より高くなって逆流が生じても、降雨がある限り、逆流による浸水被害は看過するしかかなく、被害を拡大させる結果となる。市の判断は、内水氾濫を恐れるあまり、本来の逆流防止というゲートの操作目的を見失い、被害を拡大させたのである。

5 既往最高水位を超える台風との言い逃れに対する反論

 川崎市の検証委員会は、今回の台風による多摩川水位の上昇が、既往最高水位を超えた最大であることなどから、逆流発生の予見可能性及び回避可能性がなかった結論を導こうとしている。しかし、これまでも、多摩川が氾濫危険水位を超え浸水被害が生じるような降雨が昭和49年以降4回発生していた。加えて、近年の地球温暖化の進行により、海面温度が上昇し猛烈な台風が出現する頻度が増加することが予測できた。これらを踏まえれば、本件台風襲来前から、多摩川水位が既往最高を超えて、少なくとも多摩川の安全の確保が要求される「計画高水位」まで達し、逆流のよる被害が生じることが予見可能性であり、速やかに対策を講じていれば被害は回避・軽減可能であった。

6 地球温暖化時代に改めて問われる都市水害に対する法律家の役割

 古来より日本は水害列島であるところ、今回の水害は川崎の多摩川近接地域の都市開発と深く関係する。今後、近年地球温暖化の影響により水害の激甚化が顕著となり、再び同規模またはそれ以上の水害起こりうる。法律家として、被災者の生活を再建し、市民が水害の危険に脅かされず安心して暮らせる街とするため、原因究明と再発防止を求めていく。

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

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