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2020.01.22更新

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 本件は、2018年4月、日立製作所の課長職であった原告に対する面談による退職強要、それを拒否した原告に対する退職強要終了後のパワハラ行為、及び査定差別に対し損害賠償をもとめ横浜地方裁判所に提訴した事件であり、本年3月24日に判決日を迎える。


1 電気リストラと日立製作所における退職強要・査定差別
 日本の電機産業は、輸出競争力を低下させ,事業の撤退や縮小海外資本への売却が目立つようになった。また、残った事業分野においても、今後の成長は不確かとなっている。このような中で、2008年のリーマンショック以降、2017年3月1日までに、公表されただけでも36万378人が人員整理の対象となった。しかも、これらの人員削減は、実態は労働者への押しつけであるものの、希望退職という形式を取って行われるため、社会問題化しにくく、殆どの国民の知らないところで大量のリストラが敢行されている。
 赤字や倒産の危機を理由にリストラをしていた企業が、経営危機を脱して、黒字に反転した後も、リストラを継続し続けているというのが実態である。これは、日本の大手電機メーカーが、多角的に事業展開する企業複合体(コングロマリット)から、事業の選択と集中により、少数の事業に注力するという方針に変化し、少なくない事業から、次々に撤退していることに伴って生じているものである。
 日立製作所は、高い利益目標をかかげ、それを達成するために「常時リストラ」「黒字リストラ」とでもいうべき政策を強引に進めている。日立製作所の原告に対する退職強要も、全社的な組織的意思決定に基づいて行われた脱法的なリストラである。原告が電機情報ユニオン労働組合に加入して抗議したことにより、日立製作所は、原告に対する退職強要面談は終了させたものの、その後も、原告に対して業務遂行に対する注意を、晒し者状態で行うなどパワハラ行為を行ったり、さらには、一時金査定において低評価を行い続けて、原告に転職を決意させようとし続けている。


2 違法な退職強要
 本件退職面談は、面談の機会に、圧倒的な労使の力関係の下で、労働者の権利を否定し、労働者保護法体系に明らかに反する不合理な考え方を一方的に押しつけて、原告に退職を迫ったパワハラ行為が行われている。すなわち、侮辱的言辞・仕事の取り上げ・名誉感情の不当な侵害、退職表明を行うまで継続される絶望的な繰り返しの面談等、様々なパワハラ的手法を重畳的に用いた退職(転職)の強要が行われた。


3 退職強要としての査定差別
 日立の人事評価制度であるGPM面談及びキャリア面談の名もの下行われた退職面談を境に、同じ原告に対する評価が、明らかに大きく下がっている。
 GPM評価制度は、成果目標と行動目標から構成され、いずれも、上司と共に予め設定した目標に対する達成具合の主観的評価で賃金・一時金査定が行われるものである。それは、自己評価を前提としているとはいえ、最終的・実質的には、上司の主観的評価に依拠するものとなっている。そして、客観的検証が困難な、抽象的評価のため、上司の恣意的評価の余地が大とならざるをえない。原告自身は、一貫して、同様に仕事をしているのであり、本件面談における退職強要を拒否した以外には、本件面談の前後で、他に大きく評価が下がる合理的理由がない。
 そして、本件面談における退職強要の拒否は、日立製作所会社を含む電機産業が業界ぐるみで行っている電機リストラに対する抵抗を意味することになる。したがって、日立製作所会社にとってはあってはならない事態であり、だからこそ、原告が、本件面談による退職強要に必死に抵抗し、屈しなかった時点を境として、判りやすく、本件査定が極端に下げられている。したがって、本件減額査定は、不当な退職強要の中止を訴えて、会社に残ることになった原告に対し、形を変えた「退職強要」が行われていというべきである。


4 変容する日本型雇用に対する抵抗
 日立製作所出身の日本経団連中西宏明会長は、「終身雇用は制度的疲労している」等度々発言し、2020年の経団連春闘方針でも、既存の日本型雇用の見直しを示している。この経団連の示す方針の意味するところが、企業を雇用責任から免れさせ、無法図なリストラを許容し、労働者の権利を侵害する方向であることは、本件においてすでに日立製作所が行っていることからも明らかではないか。
 判決を機に、社会に対して電気リストラの実態を明るみにし、雇用の破壊に対する歯止めとしたい。 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: 川崎合同法律事務所

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