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2016.08.17更新

私たちが、市職員といえども、どういう政党機関紙を読もうが完全に自由です。川崎市長や当局から購読の理由を聞かれたり、購読していることにとやかく言われることは全くありません。
 ところが、行政法の学者を自称していた川崎市の阿部孝夫市長は、2003年3月、係長級以上の職員を対象に「政党機関紙の購読勧誘に関するアンケート調査」を強行しました。私たち市職員6人がこれは憲法違反の思想調査だと訴えている裁判は9年目に入り、東京高裁における控訴審はいよいよ9月29日に判決が言い渡されます。
 1審(2009年)は、本件調査は「原告らに回答を強制されたものとは言えず、その思想及び良心の自由ないし沈黙の自由を違法に侵害したものとはいえない」と、憲法第19条が保障している「思想・良心の自由」を極めて狭く解釈し、原告の訴えを棄却しました。

共産党をターゲットにした政治的な調査
 本件調査は「公務の中立性・公平性の観点から実情を把握する」と称して、すべての政党機関紙を対象に、「市議会議員から政党機関紙の購読勧誘を受けたことがあるか」、「圧力を感じたか」、「購読したか」などを問うものでした。
 2002年12月市議会で、公明党議員が「共産党の議員が地位を利用して市職員に赤旗を勧めている」と質問し、阿部市長が「圧力を感じて購読しているとすれば、重大な問題」と調査を約束したことが発端でした。
 市役所の中で政党機関紙の購読を勧誘している議員は共産党だけでしたから、職員には、それは共産党の「赤旗」に関する調査だとすぐに分かりました。だからこそ、原告の請求を棄却した1審でさえも、「『しんぶん赤旗』を念頭に置いた調査であることが窺われる」と認定したのです。
 本件調査の設問は、言い換えると、「共産党をどう思うか」、その親疎・遠近感の表白を迫るものでした。調査用紙に「回答は強制するものではありません」「個人の思想等を調べるものではありません」などの添え書きがあったことは、思想調査との批判を何としても免れようとする、川崎市の苦肉の策でした。

危険な『思想』の持ち主をあぶり出す「踏み絵」
 本件調査は、総務局を頂点とする人事・業務の指揮命令系統と機構を丸ごと使って、職員には公務としておろされ、各課長が用紙を配布し、課長机上に置いた書類袋(一部出先は庁内便)で回収しました。課長には、誰が回答し、回答しなかったか、誰がどういう回答をしたか、チェックできる仕組みで行われたのです。
 回答しなかった者は、共産党支持者、同党に親近感をもつ者であろうと推測され、それは、市職員の中の共産党支持者、同党に親近感をもつ者を「あぶり出す」、いわば「踏み絵」的な効果をもつものであったと言わなければなりません。
 公権力である川崎市が、人の内心のものの見方や考え方を知ろうとするのは、権力にとって危険な「思想」の持ち主を掌握し、有形無形の圧迫・干渉を加えるためです。1審判決のように、厳密な意味の「強制」がない限り第19条違反にならないというのでは、「思想・良心の自由」を憲法が保障している意味がありません。川崎市が、人の内心の「思想」を知ろうとすること自体が憲法第19条に違反するのです。

「しんぶん赤旗」の購読を萎縮させる
 川崎市は、調査終了後、阿部市長の指示のもとに、総務局長名で各局区長あてに、市職員に対するメッセージとして「政党機関紙の購読にあたっては、自らの意思で判断するのが当然」との通知を出しました。阿部市長が日本共産党に批判的な立場に立つ者であることを市職員は知っていましたので、それは、今後、赤旗を購読している者は自主的判断で購読していると見なすとのアナウンス効果で、市職員の「しんぶん赤旗」購読に萎縮効果をもたらしたのです。

“公正な判決を求める”要請署名にご協力を
 裁判の当事者になるとは夢にも思わなかった原告6人には、不安の中で船出した裁判闘争の8年余でした。当時は原告全員が現役の市職員でしたが、今は全員が退職しました。控訴審を闘ったこの2年余、未開の地を切り開くような弁護団の先生方のご努力、憲法学者の意見書提出などで、憲法における「思想・良心の自由」「プライバシー権」などの今日的意義という視点から、1審判決の誤りを明らかにし、本件調査の違憲性を深め、明らかにしてきました。
 私たちは、今度こそ、憲法に照らして公平な判断で、阿部孝夫川崎市長による憲法違反の「思想調査」を弾劾する判決を迎えようと、裁判所へ向けた“公正な判決を求める”要請署名の運動に全力を挙げています。ぜひ、ご支援くださるようお願いいたします。

投稿者: 川崎合同法律事務所

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