ケーススタディー

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2023.10.03更新

 小林展大弁護士については、下記をご覧下さい。

kobayashi

 

1 受任に至る経緯
 依頼者は、自動車を運転して一時停止している時に、後方から追突される交通事故(以下「本件事故」といいます。)に遭いました。依頼者は、すぐに病院に行って診察、治療を受け、その後も継続して通院し、治療を受けていました。そのような経過の中、依頼者から相談を受け、受任することとなりました。


2 受任後から後遺障害等級の認定の申請までの動き
 依頼者に交通事故証明を取得してもらうと、人身事故になっていましたので、警察署及び検察庁に問い合わせをして、刑事記録の一部を謄写しました。また、依頼者の傷害は、いわゆるむち打ち症でしたので、被害者請求により後遺障害等級の認定の申請を行うこととし、後遺障害診断書等の必要書類を取得しました。
 必要書類の準備ができたところで、後遺障害等級の認定の申請をしました。


3 異議申し立て
 しかし、結果は後遺障害等級非該当でした。
 そこで、依頼者と協議し、この結果に対して、異議申し立てをすることとしました。依頼者には通院していた医療機関からカルテ開示をしてもらい、協力してもらえる医師(以下「協力医」といいます。)を探しました。
 そして、協力医が見つかり、後遺障害診断書、意見書等の書類を作成してもらいました。このような追加資料を準備した上で、異議申し立てを行いました。
  その結果、依頼者は後遺障害等級14級に認定されました。


4 さらなる異議申し立て
 しかしながら、従前から依頼者のカルテ一式等の資料を検討していると、依頼者については後遺障害等級12級に該当する可能性があるのではないかと考えられました。
 そこで、さらに追加の医証を準備した上で、さらに異議申し立てをしました。
 しかし、その結果は、前回の異議申し立てにより認定された後遺障害等級14級のままでした。


5 訴訟提起
 ここで、2回の異議申し立ての結果に記載された理由、依頼者に取得していただいた診療記録一式、謄写した刑事記録、協力医から今後得られそうな協力等を踏まえて、依頼者とその後の方針について協議しました。
 訴訟であれば、被害者請求により認定された後遺障害等級に拘束されるわけではないものの、一般的にむち打ち症で後遺障害等級12級に認定されることは少ないこと等も踏まえて、依頼者と協議した結果、訴訟提起することとしました。
 訴訟では、後遺障害等級については、証拠として提出した診療記録一式、CT・MRI等の画像資料、医師意見書、後遺障害診断書等をもとに立証していきました。加えて、医療過誤事件と同様に医学文献の収集につとめ、医学文献も証拠として提出していきました。
 また、損害については、逸失利益につき、いくつか対応が必要な問題点があったことから、その都度、依頼者に証拠資料の有無を確認し、援用できそうな証拠資料の準備をお願いして、立証につとめました。
 そして、裁判所の考えが開示され、後遺障害等級については12級該当を認めてもらうことができました。その後は、裁判所の考えをもとに、少し交渉をした上で、解決に至ることができました。


6 最後に
 本件は、むち打ち症につき、当初は後遺障害等級非該当との判断がされたものの、異議申し立てにより後遺障害等級14級該当が認められ、訴訟では後遺障害等級12級該当が認められて解決に至ったものです。
 診療記録に、依頼者の主張を裏付ける記載があっただけでなく、協力医の適切なサポートがあったこと、依頼者が迅速に証拠資料の収集、確保につとめたことも良い結果につながった要因ではないかと考えられます。


以上

 

投稿者: 川崎合同法律事務所

2022.08.31更新

川口彩子弁護士については、こちらをご覧下さい。

 2014年6月、Aさんは多摩区の有限会社ローカストに事務員として入社しました。ローカストは映画やCMの操演や特殊撮影などを行う会社です。入社してすぐの 8 月後半、Aさんは会社の飲み会で会社役員でもある社長の息子から強い酒をたくさん飲まされて意識を失い、そのまま社長の息子から性暴力を受けました。内容が内容だったため、Aさんは誰にも相談することができず、当時は警察に行くということも思い至りませんでした。2015年になると社長の息子はAさんを「夜の世話もしてくれる忠実な部下」として周りに見せびらかすかのように、Aさんを深夜までスナックに付き合わせ、そのまま自宅に連れて帰り、自分本位な性暴力を繰り返しました。もともと身体の弱かったAさんは、連日に及ぶ深夜までの飲酒と寝不足、不衛生な性行為で体調を崩し、意識が朦朧としたまま襲われる日々でした。避妊なしの性行為により、3 度の流産も経験しました。そして、2017 年 2 月、Aさんは社長の息子から深夜に無理矢理呼び出された際、「持病を持ってない人でも、毎晩連れ回されてたら病気になりますよ」と初めて口ごたえをしました。すると社長の息子はその晩Aさんに対し、Aさんの首が絞まるように暴行を加え、「とりあえず辞表書こっか」「誰にも分からないように荷物なくしてくれよ。そんで誰にも分からないように死んでくれる?」などと言って、解雇を通告したのです。社長の息子はAさんに「ほかにセックスできる女ができたから」とも言いました。
 2017年10月、Aさんは解雇無効と未払賃金の支払い、会社と社長の息子に対し慰謝料を請求する裁判を起こし、2021 年6月、横浜地裁川崎支部の判決が出されました。しかし、この判決は、Aさんと社長の息子は交際していたのだから性行為についても同意があったと認定し、社長の息子と会社を免罪したのです。Aさんはすぐさま控訴
し、2022年2月、画期的な東京高裁判決が言い渡されました。
 東京高裁は、Aさんが立場上社長の息子に反抗できない心理状態にあったことを正面から認め、Aさんは受け入れていたわけではなく、性暴力を受け続けてきたのだということをきちんと認めてくれました。そして、解雇も無効であると判断し、Aさんに、慰謝料と未払賃金を支払うよう命じたのです。
 性暴力の被害者は、その内容がセンシティブかつ深刻なものであるため、被害を訴えることは困難な状態にあります。これまでどれだけの性被害者が、自分にも落ち度があったのではないかと考え、泣き寝入りしてきたことでしょう。控訴審では、「上司と部下」「教師と生徒」といった地位・関係性を利用した性暴力の構造や、被害者のおかれている心理状態、そして、合意がなければそれは性暴力なのだということをあつく主張しました。それが今回の判決につながり、安堵しています。被告側は上告し、現在は最高裁の決定を待っているところです。

投稿者: 川崎合同法律事務所

2021.08.06更新

藤田温久弁護士については、こちらをご覧ください。

 

  Aさん(65歳)は夫Bさん(68歳)とお二人で戸建の建物にお住まいでした。戸建の土地、建物(以下「本件土地建物」)はいずれもBさんの名義でした。Bさんはご自宅で病気療養中のことで、Aさんがお一人でご相談にみえられました。

 ご相談は、Aさんご夫婦のお隣にお住まいのBさんの弟Cさんと同人所有のお隣の土地との境界を巡る争いが続いており、Bさんのお元気なうちに境界問題を解決したいので、境界確定のためにはどうすれば良いのかというご相談でした。
 私は、先ず、境界を確定するためには、当事者同士の話し合いがつかないのであれば、弁護士を代理人として交渉しそれでもだめな場合は境界確定訴訟(裁判をするということです)などの法的手続をとることで境界を画定することができること等をお話ししました。
 しかし、私はBさんが病気療養中で相談にもみえられなかったことが気になり、病状について遠回しに伺ったところ、Aさんは「実は・・」とBさんが癌で余命2~3ヵ月と医師から言われていることを打ち明けて下さいました。私が心配していた以上の病状であったため、Bさんの家族関係をお聞きしたところ、ご両親は亡くなられており、お子さんはいらっしゃらず、Aさんの外はCさんのみが法定相続人(法律で決められている相続人)であること、相続財産は本件土地建物と若干の預金のみであることが分かりました。
 そこで、私は、「気を悪くしないで聞いていただきたいのですが、もしご主人(Bさん)が亡くなられた場合、相続財産は貴女(Aさん)とCさんで相続することになってしまいます。しかし、「貴女に全部相続させる」旨の遺言を書いていただければ、ご兄弟には遺留分減殺請求権(遺言があっても、法定の割合を自分に渡すように要求することができる権利)もないので、貴女が単独で相続することができます。「どのように考えられますか。」と聞きました。すると、是非遺言を書いてもらいたいというご希望でした。私は、弟Cさんと境界争いをしている現状からすると、Bさんが亡くなられた後にCさんから「遺言はAさんがBさんに無理に書かせたものだ」「遺言は偽造された(勝手にAさんが書いた)ものだ」等といわれる可能性があるので公正証書遺言にした方がいいとお勧めしました。公正証書遺言は、公証人が作成するものであり、「偽造」「無理に書かせた」等というクレームを付けて遺言が無効だと争うことは非常に困難なものであることを説明させていただきました。もちろん、証人には当職と当事務所の事務局員1名を充てること、費用等についても説明させていただきました。その結果、AさんはBさんに公正証書遺言を書いてもらうことでその内容、手続を当職に依頼されることになりました。
 当職は、一刻を争うと考え、その場で公証人に電話し、公証人がBさんの病室にゆくことのできる日程を確保し、遺言原案を作成し、公証人と打合せをした後、数日後無事公正証書遺言を作成することができました。その1ヵ月後、Bさんは様態が急変し亡くなられてしまいました。
私は、Aさんから依頼を受け、遺言執行(本件土地建物の相続登記や預金の名義変更等を行う)をAさんの代理人として行いました。更に、Aさんから依頼を受け、Bさんと交渉し境界を確定することにも成功しました。
 Aさんには、「相談していなければどうなったか・・本当に有り難うございました」と大変感謝していただきました。
 法律の専門家ではない方には、今本当に必要なことは何かが分からないことが往々にしてあります。私は、これまでの30数年の弁護士生活と同じく、常に相談者にとって「今本当に必要なことは何か」をこれからの真剣に考えていきたいと思っています。 

以上
             

投稿者: 川崎合同法律事務所

2018.08.31更新

1 相談に至る経緯

 相談者は,20年以上,勤務していた職場で,飲食業務等に従事し,何十回も有期雇用契約を更新されてきた方でした。

 次回の更新の段階になって,相談者は,会社から突然,次回の契約を更新しないと告げられました。

 会社が挙げてきた理由は,いずれも事実無根であったり,問題が無いことばかりであったので,相談者は,会社に対し更新するように求めました。

 すると,会社は,雇止めを撤回すると言ってきましたが,相談者に対し,代わりに,一定の不明確な条件で更新しない旨の不更新条項が記載されている書面にサインするように言いました。

 そこで,相談者は,数名の弁護士に相談しました。ですが,受任を断られてしまい,労働問題を労働者側で行っている当職に相談を申し込みました。

 

2 本件の主な争点

 本件の争点は,

① 雇用継続への合理的期待が生じているか,

② 雇止めに客観的合理的理由があるか,社会通念上相当であるかどうか

という点にありました。

 

3 相談後の経緯

 相談者のお話を伺うと,20年以上,同じ就労場所で,同じ業務を行ってきたことから業務内容が臨時ではないこと,雇用期間が長いこと,更新回数が多いこと,一度雇止めを撤回したこと,雇用の目的からして必要以上に短い期間を定めていることから雇用継続への合理的期待が生じていると考えられました。

 このように,雇用継続への合理的期待が生じている場合に,労働者が契約更新を求めていれば,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではなければ,雇止めできず,従前の契約内容で更新されます。

 次に,会社が挙げた雇止めの理由について,いずれも,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではないことは明らかでした。

 なお,確認書については,サインする義務もない上,抽象的な条件での不更新条項が入っていましたので,サインしないように助言しました。これにサインすると,後で,条件が成就したことにより不更新とすると言われかねないからです。

 そこで,まずは,当職は,会社に対し,内容証明郵便を送付し,相談者に対する雇止めが労働契約法19条2号に反し,許されないことから雇止めの撤回,確認書のサインの強制をせずに,更新することを求めました。

 その結果,会社は,雇止めを諦め,従前通りの条件で契約を更新しました。

 

4 さいごに                                              

 契約期間が満了したことをもって,契約終了と会社から言われると,その通りであると思ってしまう方も多いかと思います。ですが,今回のように,雇用継続への合理的期待が生じている場合で,雇止めが客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではない場合には,従前の契約内容で更新されます。また,実質的に無期契約と同視できる場合にも,雇止めが客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではない場合には,従前の契約内容で更新されます。

 今回のように,交渉のみで,復職できるケースは,あまり多くはありません。ですが,更新しないことを通知された場合に,すぐに相談頂ければ,今回のように雇止めを撤回させることができる場合もあります。また,訴訟で争うことも可能です。

 諦めずに,まずは,ご相談ください。

投稿者: 川崎合同法律事務所

2018.07.02更新

失踪宣告の取消が認められたケース

弁護士 小林 展大

 

1 相談に至る経緯

  相談者は,就職に伴い,実家を出て自身の出身地を離れました。その後,相談者は,家族や親族等と連絡をとることがないまま,生活していました。その後,相談者が自分自身の戸籍を取得してみると,失踪宣告の審判が確定していて,相談者は,戸籍から除かれていることが判明しました。そこで,相談者は,行政サービス等を受給できるようにするため,戸籍の回復をすべく,弁護士に相談しました。

2 失踪宣告とは

  不在者の生死が不明の状態が一定期間継続した場合は,利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます(民法30条)。これにより,失踪宣告を受けた者は,従来の住所を中心とした範囲では死亡したものとみなされます(民法31条)。

3 失踪宣告の取消とは

  失踪宣告がされた場合でも,①失踪者が生存すること,もしくは,②失踪者が宣告によって死亡したとみなされる時と異なる時に死亡したこと,のいずれかの事実が証明されたときは,本人または利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければなりません(民法32条1項前段)。

  失踪宣告が取り消された場合は,はじめから失踪宣告がなかったものとしてあつかわれ,その結果,失踪宣告を原因として生じた権利義務の変動も生じなかったことになります(一部例外はあります。)。

4 受任後の経過

  相談者から,家族・親族関係,出身地を離れてからの生活状況,働いていた会社等を聞き取りました。そして,相談者の除籍謄本,相談者の写真等,相談者が失踪者であることを特定するための資料を集めて,家庭裁判所に失踪宣告取消の審判を申し立てました。

  しかし,相談者は,身分証明書となりうるものを所持していなかったため,別の方法で,失踪者が生存することを証明しなければならなくなりました。

  そこで,相談者の親族,相談者のかつての勤務先の関係者に協力をお願いすることとしました。その結果,相談者の親族からは協力を得ることはできませんでしたが,相談者のかつての勤務先の関係者から,相談者が会社に在籍していたときの資料を提供していただいた上,相談者が失踪者であるとの書面作成にも協力をいただくことができました。

  さらに,家庭裁判所調査官による調査(事実関係及び家族・親族関係の聞き取り等)も行われました。

5 審判の結果

  家庭裁判所から,相談者に対してなされた失踪宣告を取り消すとの審判がなされました。

  これにより,相談者は,戸籍を回復することができました。

6 さいごに

  本件は,失踪宣告が確定した失踪者が生存していたという珍しいケースです。しかし,失踪者が生存しているにもかかわらず,失踪宣告が取り消されないと,戸籍から除かれたままとなり,住民票が作成できない,各種行政サービスが受給できない等の不都合が生じますので,本件と似たような事態が生じている場合には,弁護士にご相談下さい。

投稿者: 川崎合同法律事務所

2018.06.05更新

グリーンディスプレイ

1 過労運転を原因とする通勤災害に安全配慮義務違反を認める

 2014年4月24日、株式会社グリーディスプレイで就労していた渡辺航太さん(死亡当時24歳)が、長時間不規則労働と22時間勤務の末に帰宅途中に単独バイク事故を起こし死亡したことは安全配慮義務違反であったとして、横浜地方裁判所川崎支部に損害賠償請求を提訴した事件で、本年2月8日、横浜地方裁判所川崎支部は、勤途上の過労運転事故を防ぐ安全配慮義務を認定したうえで、約7600万円の賠償、謝罪をし、、会社は再発防止策として、11時間の勤務間インターバルを就業規則に明記すること、男女別仮眠室の設置・深夜タクシーチケットの導入など模範となる内容を約束しました。

 裁判所は、被害者が長時間労働、深夜早朝の不規則勤務による過重な業務によって、疲労が過度に蓄積し顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で、居眠り状態に陥って、事故死するに至ったことと、会社が原付バイクによる出勤を指示・容認していたことを認定しました。その上で、裁判所は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当である」と判断しました。これまで、通勤帰宅途上の交通事故は、事業者の業務指揮命令外で労働者の自己責任の範囲とされ、事業者の安全配慮義務違反が問われることはほとんどありませんでした。労災認定上も、「通勤災害」は通勤経路であれば労災認定されますが、事故の背景にある過労実態について調査されることはなく、事業者も対策を怠ってきました。本件は、通勤の方法についても、事業者の安全配慮義務の範囲を明確に拡張した点で意義があります。今後、過労死、過労自殺に加えて、潜在する過労事故についても、過労死の一類型として対策が進むことが求められます。

  

2 「働き方改革」のなかで過労死対策を裁判所が宣言

本件は、裁判長が公開法廷で30分以上にわたり、和解勧告を読み上げるという異例の対応がされました。以下一部引用します。

「現在、あらためて「過労死」に関する社会の関心が高まっており、「過労死」の撲滅は、我が国において喫緊に解決すべき重要な課題であり、「過労死のない社会」は、企業の指揮命令に服する立場の従業員や、その家族、ひいては社会全体の悲願であるといえよう。これを達成するためには、「過労死」の防止の法的及び社会的責任を担うそれぞれの企業において、「働く人の立場・視点に立った『働き方改革』を推進して、長時間労働の削減と労働環境の誠意に努めることが求められていると思われ、そのような社会的機運の高まりがあると認められる」「本件の悲惨さと、大学卒業後に未来を絶たれた被害者の亡航太の無念さ、その遺族である原告らの悲痛な心情と極度の落胆と喪失感に思いを致すとき、社会的な意義をも有する民事訴訟を担当することのある裁判所においても、無視することは許されないと思われるのであり、当裁判所は、本件事故に係る本件訴訟の解決の在りようについて、真摯に、深甚に、熟慮すべきであると考えるところである」「亡航太の地球より重い生命を代償とする貴重な教訓として」「被告が、むしろ、本件を契機に、多数の従業員を擁する企業として、「過労死」を撲滅することを約し、二度と「過労事故」を生じさせないことを宣言して、社会的責任を果たしていく、在るべき企業の範たるものとなり、その先駆けとして、今後も、被告における長時間労働を削減し、労働環境の整備を実行し、これらを継続していくことが望まれるのであり、期待される」「亡航太の遺志に沿うもように思われるところであり、慰霊のための何よりの策となると考えられるのである。」

裁判所の読み上げたこの和解勧告は「働き方改革」のなかで司法として過労死対策を宣言したといえるものです。「働き方改革」と、航太さんの命の重みから、責務を自覚する司法。法的責任を明らかにするだけでなく、謝罪、賠償、再発防止による社会規範化により、慰霊をする決意を示したものです。

裁判所決定全文はこちらからご覧になれます→http://bit.ly/2JzpO4P

 

3  厚生労働省へ過労運転事故対策を求める申し入れ

今回の和解を踏まえて、3月1日、原告・弁護団と支援者は、厚生労働省へ過労運転事故対策を求め、①通院災害が過労運転が原因となっていないかの実態調査②勤務間インターバル規制の法制化③事業者に対して過労運転防止策の指導徹底を申し入れました。

EU(欧州連合)は、労働時間指令「労働時間の編成の一定の側面に関する欧州会議及び閣僚理事会の指令」(2003/88/EC)において、労働者の健康と安全を確保するため、労働時間(休憩時間)に関して、24時間につき最低連続11時間の休息を取ると、定めています。EUの勤務間インターバル規制では、週休1日と合わせれば時間外労働の上限は月78時間となり、日本の厚生労働省過労死基準の時間外労働月80時間を下回り、ほとんどの過労死はなくせると言われています。

他方、国会で審議予定の「働き方改革一括法案」は、労働時間等設定法を改正し勤務間インターバルを導入しますが、努力義務にとどまり、実効性は期待できません。過労死の撲滅のためには、EUの最低基準である11時間の勤務間インターバルの速やかな法規制化が不可欠です。 

 

4 最後に 司法を覚醒させたものはなにか

本件の裁判所の気概ある和解決定を機に、過労事故がメディアでも多数報道され、社会問題として広がりつつあります。「司法の良心」を覚醒させたものはなにかについて、触れたいと思います。

  先ず何よりも、短くも生涯を閉じた航太さんを想う母、遺族原告の渡辺淳子さんの魂を削った訴えが、多くの市民やメディアを突き動かしてきました。提訴以来、多数のメディアで報道され、毎回の裁判所期日では、支援者によって傍聴席を埋められてきました。さらに、非公開和解期日も多数の傍聴人が駆け付け調停室を包囲していました。これらの支援者の声は、全国から合計1万5000筆以上の署名となり、毎月裁判所に提出されました。このような多くの声に応え、裁判長は、和解期日で、「私にも航太さんと同じ年の息子がいる。我がことと考えて書いた」と今回の和解決定を出す決断を後押しし、裁判官を官僚から人へ変えることができたのだと思います。原告の必死の訴え、多くの支援者の運動、過労死の撲滅を願い二度と被害者を繰り返してはならないと願う広汎な世論の力、そして人権救済の砦としての責務を深く自覚した司法の良心が一体となり、実現したものと考えています。

最後に、和解決定を受けての声明の結文をご紹介します。

「本件が勝利和解によって終結しても、航太さんが淳子さんと共に暮らした家に帰ってくることは二度とありません。航太さんの短い生涯と引き替えに残されたこの和解が、地球よりも重い一人ひとりの命を大事にする社会を創る希望となることを願うものです。」

 

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

2018.05.25更新

 2018年4月4日、(株)日立製作所戸塚事業所においてソフトウェア関係の業務に従事している課長職50代の男性原告が、会社から退職強要、パワーハラスメント、不当査定を受けたことに対して、横浜地方裁判所に対して、慰謝料等合計224万円の損害賠償を求める提訴をしました。事件の概要の本件の意義をお知らせします。 

 

第1 事件の概要

1 退職強要

  2016年8月頃から、原告の所属していた事業所において黒字リストラが開始され、担当部長との個別面談が行われることになりました。2016年末には、原告が課長として担当していた部署の仕事から外され、面談の際にも「仕事をやりたいなら、今の課長から仕事を奪え。彼らより仕事ができることを証明しろ」「私に君の仕事を探すミッションはない。自分で仕事を探してこい」「課長職の仕事ぶりではない。若手、新人クラスだ」「日立にこだわっているから答えがないのだ。制約を外せ」「制約を外すまで面談は続ける」などと迫り、違法に退職強要を行いました。

 

2 パワーハラスメント

  2017年1月に、原告が個人加盟ユニオンに加入した以降、部長による退職強要の面談は行われなくなりました。しかし、これにかわり、同年7月、部長より、原告に対して、執拗に業務内容についてあげつらうパワーハラスメントが行われることになりました。以下、例を挙げます。

 

①  原告が司会を務めた会議について、部長はあえて、会議参加者約30名全てを同報としたメールで、原告の会議運営上の課題について、公然と原告を非難するなど、原告の名誉を損なう形で指導を行いました。原告が部長の指示を受けて再報告したものに対してもアドバイスをせずに会議の席上で公然と原告の非難することを伝えました。

 

②  部長の指示にしたがって作成した業務シートについてメールで「もしかして初めてWBSを書きましたか?」「WBSとは何か知っていますか?」「WBS=Work Breakdown Structure」と言うことくらい知っていると思いますが」などと、原告が当然知っていることを侮辱にするメールを送りました。

 

  以上の行為は、職場内の力関係を背景にした、侮辱、名誉毀損に該当するものであり、厚生労働省のパワーハラスメント類型の「精神的な攻撃」に該当するもので、被告としてパワーハラスメントを防ぐ就業環境保持義務に反するものです。

 

3 不当査定

   上記退職強要及びパワーハラスメントを受けた以降の期間、一時金査定及び給与査定について、従来に比べて明らかに不当な低評価を行いました。 

 

第2 本件の意義 日本を代表する企業日立製作所において横行する「黒字リストラ

 

 日立製作所は、高い利益目標をかかげ、それを達成するために「常時リストラ」「黒字リストラ」とでもいうべき政策を強引に進めています。多くの中小零細企業が、売上の減少と赤字に苦しめられながら、それでも、一度雇い入れた労働者との雇用契約を遵守し、好調時に蓄えた内部留保を切り崩したり、将来の利益による返済を約束して運転資金を調達する等して、必死で経営を続けています。にもかかわらず、日本を代表する被告が、巨大な内部留保を蓄え、それどころか、巨大な黒字を生み出す経営を続けているにもかかわらず、より一層の利益を獲得するために、雇い入れた労働者に、被告からの退職を迫るというのは、企業の社会的責任を忘れたあまりに身勝手な行為といわざるを得ません。ところが、そのように身勝手な退職の要求についても、被告のほとんどの労働者は、会社にはあなたが働く場はないといわれ、他に途がないといわれ、抗うことも出来ずに退職をさせられているのが現実です。本件は、勇気ある労働者がこれを告発する意義を持ちます。

投稿者: 川崎合同法律事務所

2018.03.25更新


1  事件の概要
  この事件は、派遣労働者の被災事件でした。
  事故があったのは、2001(平成22)年12月16日の午前です。依頼者は、山中で急な斜面を、重量物を天秤棒にぶら下げて二人で運んでいたときに、足を滑らせて被災しました。足を滑らせたのは、依頼者は上背があるにもかかわらず、会社が背の低い人と組ませた結果、天秤棒が傾き、吊った重量物が安定しなかったためです。


2  派遣労働者の置かれた立場
    会社は、依頼者を派遣労働者として見下したのか、作業服も靴も支給せず、被災後も、苦しむ依頼者を医師に診せませんでした。労災なので、十分に補償すべきなのですが、対応は冷淡でした。依頼者の正当な補償請求に、言いがかりをつけられたかのような対応をしました。
    依頼者は、そのような会社の対応に非常に傷ついていました。


3  必勝の体制で法廷に臨む
    依頼者の相談を受けたのは、当時新人だった川岸卓哉弁護士でした。同弁護士は、これはぜひ救済しなければばらないと決意し、必勝を期すために、私を誘い、複数体制で裁判に臨みました。


4  裁判所の対応と逆転
    私達は、裁判官が、「不当請求だ」と自信満々の会社の態度に幻惑されたのか、原告に対する対応が冷たいように思いました。
    私達は、当事者の生の声を直接裁判官に届けて、事件の本質を理解してもらおうと考え、尋問に勝負をかけました。私達は、依頼者と用意周到に打ち合わせをして、詳細に事実を聞き取り、会社側の主張の矛盾点を探りました。依頼者にとっては、事実に迫るためとはいえ、私達から厳しく質問されるので、過酷な打ち合わせだったと思います。しかし不平もいわず協力してくれました。
    尋問当日、依頼者は、主尋問に対し事実を生々しく語り、詳細に事件を再現してみせました。他方で、私たちは、落ち度はないと開き直る会社側の証人を厳しく問い質して真実に迫りました。依頼者は悔しい思いをしていたためが、私たちの尋問に満足し、尋問終了後握手を求めてきました。
    裁判所も、尋問をきっかけとして、理解を示して下さり、最終的に依頼者勝訴の判決を下しました。


5  私たちの決意
    ただ、意外だったのは、判決は、依頼者にも落ち度があったとして、賠償額を減らしたことです。天秤棒を担いで、危ないと思った時点で、その作業を止めなかった点に過失があるとしました。
    派遣労働者は、会社から睨まれれば、いつもで排除されます。「危ない」と思っても、会社の指示に逆らえる訳がありません。
    裁判所は、起きた事態は理解をしましたが、派遣労働者の弱い立場への理解は不十分でした。
    私たちは、裁判終了後、今後も、裁判と社会運動を通じて、派遣労働者の実態を訴えその権利を守りたいと、新たに決意を固めなおした次第です。                       

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

2017.12.07更新

1 ご相談内容

 相談者は、高齢の母親と同居をされているご長男でした。母親が80代と高齢であり、今のところ深刻な認知症などの症状は出ていませんが、今後の財産管理が不安であるため、母親の財産を自分が管理できるように、最近テレビなどで話題となっている家族信託を活用したいとのご要望で、母親と一緒に相談にお越し頂きました。母親の持っている財産は、普通預金口座複数と、同居している土地建物等にご長男と共有持ち分をお持ちでした。

 

2 老後に備えた新しい「家族信託」

 現在の日本は高齢化社会を迎えています。今回の相談者ご家族のように、親のこれからが心配な方、自分の生活や財産管理が心配になってきた方も多いのではないでしょうか。

 このような場合、成年後見制度なども活用できますが、認知能力がそこまで低下していない段階での高齢者の生活や財産管理をする制度としては権限がなく不十分です。そこで、近年、家族信託という新しい方法に注目が集まっています。「家族信託」とは、信託の一種です。信託とは委託者の財産から特定の財産を分離することで財産を管理する制度です。財産を受託者に渡してしまうといっても、完全に受託者の財産になってしまうわけではなく、受託者は信託の目的に従った管理処分しかできません。つまり、信託された財産は、頼んだ人(委託者)からも頼まれた人(受託者)からも切り離された、信託の目的のための独立した財産になります。家族信託の典型的な活用例としては、今回の相談者の方のように、配偶者亡き後の高齢者福祉型信託があります。

 

3 事件解決の流れ

 今回のケースでは、母親の財産のうち預金口座を信託財産として、ご長男が通帳や印鑑、カードなどを管理する信託契約とし、母親のために生活費、医療費、入居施設料等を支払うことを目的とする委任契約も同時に締結しました。そして、母親が亡くなったときには、残余財産を遠方に住む次男が帰属させることとし、兄弟間のバランスにも配慮する内容としました。なお、土地については、ご長男が共有持分を持っているため母親の勝手な処分などは難しいこと、税金面でのメリットが乏しいことから、今回は信託財産の対象から外しました。

 以上の信託契約・委任契約の内容の公正証書作成に至るまで、初回相談から3ヶ月ほどで完了することが出来ました。

 

4 家族信託のすすめ

 今回の解決方法以外にも、家族信託は、活用次第では、多様な可能性がある柔軟な制度です。自分の要望をどうやったら実現できるかを弁護士一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

投稿者: 川崎合同法律事務所

2017.11.10更新

1 辞表撤回の相談


  13年ほどの前の事件です。「辞表を提出してしまったが、撤回をしたい」というご相談を受けました。定年が近い方で、いま辞めると、退職金が1000万円近く減らされるということでした。
    会社から一方的に解雇されたときは、従業員の地位があることを争うことができますが、自ら辞表を提出してしまった場合は争いようがないというのが弁護士の常識でした。


 依頼者との論争


  私も渋い顔をして「無理です」と答えたのですが、付添の先輩たちが、「彼が辞表を提出したのは、辞表を提出しなければ解雇すると言われたからで、脅されて辞表を提出したのにそれを撤回できないのはおかしい」と反論しました。
   その程度で脅迫になるかなと思いましたが、ご相談者の話を聞いているうちに、ご相談者は解雇を避けるために辞表を提出したのであり、その解雇に理由がなければ、辞表提出は動機に誤りがあり、真意に基づくものではないとして、無効を主張することが可能ではないかと思うようになりました。


3 錯誤無効の論理
   誤って意思表示をした場合、「錯誤」に基づく意思表示として無効を主張できるとの規定が民法にあります。これを「錯誤無効」といいます。
   ただ、無効を主張できるのは、相手がその錯誤を知っていた場合です。依頼者の場合、使用者から「辞表を提出しなければ解雇になる」と言われて辞表を提出したのですから、使用者は、依頼者がなぜ辞表を提出したか、辞表を提出した動機を知っていたはずです。解雇事由がないことを立証できれば、無効を主張できると思いました。


4 訴状の提出
   当時、錯誤無効を争ったケースは稀でした。裁判所が相手にしてくれるかどうか不安はありました。
    ただ、依頼者は中学を出て就職し、働きながら夜間大学に学ぶなど研鑽を積み、立派な業績を残した人でした。会社が依頼者に辞表を書かせたのは、退職金を節約するためではないかと疑われました。依頼者たちの話を聞いているうちに、何とかしなければという思いにかられました。そして、訴状を書き上げ、最後は確信をもって訴状を裁判所に提出しました。


5 裁判の結果
    裁判では第一審で見事勝訴し、高裁で和解が成立しました。依頼者は辞表を書いたとき以降の賃金と退職金満額もらって円満に退職となりました。
    後に一審を担当した裁判官と話す機会があったのですが、錯誤無効で判決をするのは勇気がいったと言っていました。この判決は当時の法律雑誌にも紹介されました。
    勝利が確定した後、依頼者と私で少しずつお金を出し、支援してくれた先輩方を招待して、一泊温泉旅行をしたことが良い思い出となっています。


6 この事件で学んだこと
    私が事件を通して学んだのは、専門家として無理と思っても依頼者の話は一生懸命聞くべきだし、理不尽だと思えば正そうという勇気と情熱が重要ということです。       

                              以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

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