講演・セミナー

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2023.03.01更新

前田弁護士については、下記ページをご覧下さい。 maeda

 

 2023年2月22日、弊所主催の企画として、NPO法人アジア太平洋資料センターの共同代表の内田聖子さんをお招きし、「民主主義と地方自治の再生へ」と題した講演会を行いました。


 内田さんは、2022年6月に行われた東京都杉並区長選挙において、当時新人であった岸本聡子さんの選挙対策本部長を務められた方であり、その選挙において、岸本氏を杉並区初の女性区長として当選させました。岸本氏は、大学を卒業後にオランダに渡り、現地のNPO法人で長年水道事業などの公共事業の研究を行ってきた方であり、市民に寄り添った行政サービスというものを熟知された方ではあったものの、長いこと日本を離れてオランダに住まれていたこともあり、日本での知名度なども特にないところでの選挙戦のスタートとなりました。結果として、岸本氏は当時4期目を目指していた現職らを押さえ当選したのですが、なぜこの選挙で岸本氏が当選できたのか、どのようにして市民の信頼を得るに至ったのか、それらについてご講演をいただきました。


 当時杉並区では、正規職員の削減、会計年度のみの短期任用職員の増加、公共サービスの民間委託が進むなど、行政の縮小化が進んでおり、また、再開発の名の下に高層ビルやタワーマンションの建築が進められる一方で児童館や高齢者施設などは移転させられるなどしていました。そのような行政の縮小化については、少なくない住民が危機感を抱いており、そのような住民らにより市民団体が組織され、区長選の半年も前から駅前等で街宣活動が展開されていました。もっとも、街宣活動といっても、そのスタイルは、街宣車を出し、大人数で、大きな声で、決まったフレーズを連呼するというような従来の街宣スタイルとは全く異なり、仕事帰りや買い物帰りのごく普通の市民が、リレートーク形式で、自分の生活の中で感じて不安や危機感を具体的に吐露するというものでした。このような街宣は、道行く人に、政治の出発点が自分の生活にあるのだという実感を持たせるものでした。岸本氏の選対本部長を務めた内田さんは、そのような街宣こそが、政治が日常生活の延長線上にあるものであるとの認識や実感を市民に持たせるものであり、市民の間に肩肘張らずに政治を語るための土壌を醸成するものであると考えました。岸本氏の選挙戦で展開された街宣スタイルは従来の街宣活動とは一線を画するものが多く、メディアにも多く取り上げられました。例えば、その一例に「ひとり街宣」という街宣活動がありましたが、これは、岸本氏を支持する市民がたったひとりで街角に立ち、生活上の悩みを吐露し、悩みを共有し解決策の考案を共にしたいと道行く人に呼びかけ、その中で岸本氏を支持する理由も語るといったものでした。このような街宣は、ごく普通の人が、何らかの組織の代弁者としてではなく、一個人として、自分の言葉で、自分の生活について語るというものでした。また、候補者である岸本氏が、地面に座って話者のリレートークに耳を傾けるといった街宣も行いました。内田さんは岸本氏の選挙活動のコンセプトとして「対話」を掲げていましたが、候補者が聴衆とともに話者の悩みに耳を傾け、その時間自体を街宣活動とするスタイルは、「対話」をコンセプトとした内田さんの選挙対策の特徴がよく表れたものでした。このような街宣活動が実を結び、市民のニーズに耳を傾けた区政実現への期待が岸本氏に寄せられ、岸本氏の当選が実現しました。


 市民の政治への無関心が問題視される昨今ですが、政治に対して無関心にみえる人の中には、単にこれまで政治課題について言語化する機会を与えられてこなかっただけであるという人も多いのではないでしょうか。内田さんによる選挙の戦略と岸本氏の当選は、政治への思いを言語化する機会を創り出すことの大切さ、そしてその機会を求めている市民が少なくないという事実を改めて気づかせてくれるものでした。


 この講演会には、平日であるにもかかわらず多くの方にお越しいただくことができました。まさに「政治課題について言語化し対話する機会」をまた一つ持てたことを所員一同とても嬉しく思っております。今後も、このような対話の場を一つ一つ改めて、この場をお借りして、ご講演いただいた内田さん、お越しいただいた皆様に、感謝申し上げます。誠に有り難うございました。

投稿者: 川崎合同法律事務所

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