ケーススタディー

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2017.05.30更新

1 火災の発生

   川崎市川崎区所在の宅地262㎡の土地を目的とする土地賃貸借契約が、20年の契約期間を終え、平成26年1月、相当額の更新料を支払い、新たに20年の更新契約が締結されました。


   この借地上には、木造瓦葺2階建居宅、床面積 1階118.97㎡、2階111.40㎡の建物が建築され、一部は、自己使用の居住用として、一部が賃貸用の共同住宅として利用されていました。


   ところが、平成28年2月に火災が発生し、延べ床面積のうち、1階60㎡、2階100㎡が一部類焼し、1階45㎡、2階46㎡が消防活動で水濡れとなり、その結果、居住者は全員引越しし、非居住の状態となりました。


2 大規模改造を断念、借地権譲渡へ

 前記建物は、被災の結果、建物自体は一部消失したものの一部は残存し、しかし、大きな建物のため、再居住のためには大規模改造が必要となりました。


 しかし、借地人は高齢で、改造資金に乏しく、一方、賃貸借契約は契約更新後間がなく、その残存期間が長期間あり、262㎡という借地上の広さからしてその財産時価も大きく、それらを総合して、借地人は、財産的価値の確保のため、賃貸人の承諾を得て、借地権を譲渡する決意を固めました。


  そこで、不動産業者に依頼して、若干の期間をかけて、同じ川崎区内の不動産業者でアパート経営を行っている会社を見つけ、借地権の買受人を確定しました。


   また、買受人としては、被災した建物の大改造ではなく、既存建物を取り毀して、借地上に新たに2階建の共同住宅を建てたいということで、借地権譲渡の承諾とともに建物改築の承諾も併せ、賃貸人から取ってほしい、それから買受けると申出るに至りました。


3 賃貸人(地主)との交渉

   そこで、借地人は、買受人の営業報告書、決算報告書の提供をうけて、買受人として資力状況、会社実績に問題がないことを明らかにし、そして、改築予定の建築図面(平面図、立体図)を作成してもらい、改築予定建物が周辺地域(市街化区域、第二種住居地域、容積率200%、建ぺい率60%、準防火地域、第3種高度地域)の利用形態に適合していることを前提にして、平成28年4月に賃貸人に借地権譲渡と改築という2つの承諾を求めて、話合いの申入をしました。


   そして、話し合いがなかなか進展しないなかで、平成28年7月に同趣旨の再度の申入をしました。


   しかし、これに対し、賃貸人は、「承諾はしない。火災を起こした以上、無償で明渡してもらいたい」として、借地人の申入を拒否してきました。


4 借地非訟手続の申立

  この賃貸人の対応に直面して、借地人は弁護士に委任して、前記2つの承諾を求めて、借地借家法17条、19条(地主の承諾に代る裁判所の許可)の規定に基づいて、平成28年10月、横浜地方裁判所川崎支部に対し、2つの承諾をセットの形にして借地非訟事件の申立をしました。


   借地非訟事件の手続は、双方の代理人弁護士の手によって、年内中は、双方の言い分のすり合せが行われ、そして、年明けからは当初「無償の明渡」に固執していた賃貸人が借地権を買戻す、つまり、有償での解決を申出てきて、但し、通常の借地権評価ではなく、火災の発生とそれによる一部消失の建物の現状を勘案しての「金額」で解決したいということで、裁判上の和解折衝が開始されました。


   その結果、裁判提起(借地非訟事件の申立)から約5ヵ月のちの平成29年4月に、適正額を確定した上で借地権を賃貸人が買取るということで、一件落着しました。


   和解成立後、一部焼失した建物は、4月末に解体業者の手によって取毀され、5月中旬に建物滅失登記手続が完了し、無事更地化した状態で賃借人(借地人)から賃貸人(地主)に引渡が行われました。


   前回の事例紹介では、建物改築の手続きを紹介しました。今回は、火災発生ということで、借地人として思わぬ事態となったのですが、借地非訟手続の正しい理解のもとに、借地権譲渡の案件が、賃貸人の買取りという方向で無事解決したことをご紹介しました。


   ともあれ、土地賃貸借契約(借地契約)の思わぬ事態の発生に対処するためには、なるべく早い時期からの法律相談をお勧めする次第です。

投稿者: 川崎合同法律事務所

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