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2020.04.27更新

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第1 はじめに

 マイナンバー制度は,日本に住民票を有する全ての者に12桁の番号(法人番号は13桁の番号)を付番し,社会保障,税,災害対策の3分野で,複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤である。

 そして,このマイナンバー制度がプライバシー権を侵害するとして,2016年3月24日,マイナンバー違憲訴訟神奈川弁護団は横浜地方裁判所にマイナンバー違憲訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提訴した。原告数は,提訴当時は201名であったが,一審では第3次提訴まで行い,230名となった。

 

第2 本件訴訟の推移

1 原告らの請求

 原告らは,本件訴訟において,個人番号の収集,保存,利用及び提供の差止め,被告国の保存する個人番号の削除,国家賠償(慰謝料等11万円及びこれに対する遅延損害金)を請求している。

2 原告らの主張

 本件訴訟における原告らの主張は,自己情報コントロール権が憲法13条により保障されていること,マイナンバー制度のシステム上の問題点,後を絶たない個人番号の漏洩事故及び個人番号取扱事務に関する法令違反行為,住基ネット最高裁判決の示す合憲性の要件を満たしていないこと等である。

3 被告国の不誠実な応訴態度

 これに対し,被告国は,答弁書において一応の認否と反論だけをし、その後は原告らの主張について、まともに反論しないという姿勢を続けている。プライバシーが守られているということは、一人ひとりが安心して社会生活を送る上で決定的に重用であり、国が創出した制度がプライバシーを侵害する恐れが強いという原告の主張について、国は誠実に応答する義務がある。しかし、そうした責任を事実上放棄した国の応訴態度は、市民、国民を馬鹿にしているとしかいいようがない。原告らは、国に対し原告らの主張に誠実に応答せよと求め、裁判所にも積極的な訴訟指揮をすべきことを要求してきたが、裁判所も、国に主張を促すことをしていないことも問題である。

4 後を絶たない個人番号漏洩事故及び個人番号取扱事務に関する法令違反行為

 マイナンバー制度においては,個人番号が漏洩する事故や法令違反行為が後を絶たない。

 個人番号カードや個人番号記載書類を他人に交付してしまった例,個人番号カードと同カードの交付端末のパソコンが盗難された例,親族や他人になりすまして個人番号カードを不正取得した例,給与所得等に係る市町村民税・都道府県民税特別徴収税額の決定・変更通知書の誤送付により個人番号が大量に漏洩した例等,もはや枚挙にいとまがない。

 また,マイナンバー関連の入力業務等につき、委託元の許諾を得ずになされた再委託の横行も問題になっている。番号法10条1項は,個人番号取扱業務を再委託するには委託元の許諾を得なければならないとしているが,その許諾を得ずに同業務の再委託をしてしまった事例が多発している(神奈川県内では,川崎市の委託した業者が市の許諾を得ずに業務の再委託をしていたことが明らかとなった)。これは立派な法令違反行為である。

 さらに特筆すべきは,個人番号の適正な取扱いを監視・監督するはずの個人情報保護委員会が上記のような漏えい事案が発生しているにもかかわらず,ほとんど権限を行使することなく,それらを看過しているという点である。第三者機関が個人情報の漏えい防止のため機能していることは、住基ネット最高裁判決の合憲性の要件の一つであるが、番号制度において第三者機関が機能していないことは、この最高裁判決に照らしても合憲性の要件を満たしていないことになる。

5 尋問について

 尋問については,個人情報保護等に詳しい弁護士,マイナンバー違憲訴訟東京訴訟の原告でマイナンバー制度に詳しい方,マイナンバー違憲訴訟神奈川訴訟の原告の方,個人情報保護委員会事務局長を人証申請した。その結果,個人情報保護等に詳しい弁護士,マイナンバー違憲訴訟東京訴訟の原告でマイナンバー制度に詳しい方,マイナンバー違憲訴訟神奈川訴訟の原告の方が採用され,個人情報保護委員会事務局長は却下となった。人証の採否の決定の際,裁判長から「憲法学者の人証申請があったら採用しようと思っていた。」との発言があった。当初は憲法学者を人証申請していたのだが,一身上の都合により辞退となってしまったので,憲法学者を尋問するには至らなかった。この点は悔やまれるところである。

 その後,2名の憲法学者から意見書を作成していただいたので,その意見書を証拠として提出している。

 そして,2019年3月7日,尋問が実施された。個人情報保護等に詳しい弁護士については,地方自治体における番号制度の運用実態を中心に,番号制度により生じている負担及び情報漏洩の危険性が否定できないこと,マイナンバー違憲訴訟東京訴訟の原告の方でマイナンバー制度に詳しい方については,個人情報保護に関する市民運動に関わってきた経験及び都内自治体で就労していた経験から,番号制度の運用状況及び番号制度がプライバシー侵害を生じさせる構造的欠陥を持っていること,マイナンバー違憲訴訟神奈川訴訟の原告の方については,番号制度によって原告らのプライバシー権が現に侵害され,または侵害の現実的危険があり,損害が発生していること,をそれぞれ証言してもらった。

 なお,尋問の際,左陪席がずっと眠っていた(少なくとも眠っていたように見えた)ことが,原告ら及び神奈川弁護団の怒りに火をつけた結果となった。

6 情報公開請求

 本件訴訟において,尋問が行われた頃,上記のマイナンバー関連の入力業務等につき、委託元の許諾を得ずになされた再委託の横行が次々と発覚した。

 東京都内では,墨田区,江戸川区,豊島区,台東区,神奈川県内では川崎市,埼玉県内ではさいたま市,東松山市,和光市,幸手市,本庄市,羽生市,深谷市,熊本県内では熊本市,国の行政機関では東京国税局,大阪国税局において,番号法10条1項違反の委託元の許諾を得ない再委託が行われていたことが明らかとなった。

 この問題については,本件訴訟において,被告国が主張,反論をしないので,事実関係を明らかにするために,憲法が国民に保障している知る権利を行使して,上記の地方自治体,行政機関に対して情報公開請求をすることとした。この情報公開請求は,プライバシー権という基本的人権を守るために,知る権利という基本的人権を行使する場面であり,基本的人権の擁護と社会正義を使命とする弁護士にとって(弁護士法1条1項),とても魂が高ぶるところである。

 情報公開請求においては,開示を求める文書を「番号法に基づく事務に関し再委託の禁止に反して再委託が行われた事案についての経過がわかるもの一切」として,次々と行政文書が開示・公開された。

 しかし,マイナンバー違憲訴訟神奈川弁護団は,さらに開示・公開される行政文書が存在すると考えられること,また,不開示・非公開の処分がなされた部分につき,取消事由があると考えたことから,審査請求を行った。

 審査請求においては,対象文書を追加特定して開示不開示(公開非公開)の決定をすること,不開示・非公開の処分がなされた部分の一部につき,取消しを求めている。

 現在は,上記の各自治体からさらに大量の行政文書が追加特定されて,一部開示決定がなされている。また,熊本市,大阪国税局,国税庁にも審査請求をしたところであり,今後も行政文書が追加特定されることが見込まれる。

 この情報公開請求,審査請求は,基本的にはマイナンバー違憲訴訟で主張・立証をするために行っているものである。一審時点でも,開示,公開された資料を踏まえた主張・立証をしたが,今後(控訴審)は追加特定された行政文書も踏まえて,主張・立証を行う予定である(弁護団は既に追加特定された行政文書を踏まえた控訴審準備書面を起案しているところである。)。

 その一方で,情報公開請求,審査請求はマイナンバー違憲訴訟の主張・立証のためだけに行っているものではない。大量の行政文書が開示,公開されているということもあり,マイナンバー違憲訴訟東京訴訟,神奈川訴訟の原告の方々と分担して,開示文書の分析をするという市民運動も行っているのである。いよいよ我ら民衆が,知る権利という基本的人権を行使して,プライバシー権を守るために立ち上がったのである。

 

第3 一審判決,そして控訴審へ

1 2019年9月26日,横浜地方裁判所は不当判決を言い渡した。この判決には,いくつもの問題点があると考えているが,同判決においては,「番号制度の運用開始以後,行政機関等における過誤や不正,民間事業者の違法な再委託及び欺罔等による不正な取得により,個人番号及び特定個人情報の漏えいが生じていることに鑑みると,上記安全管理措置によっても,個人番号及び特定個人情報の漏えいを完全に防ぐことが困難であることは否定できない。」,「個人番号及び特定個人情報の漏えい事例が存在することから,番号制度に対する国民の信頼を維持し,同制度の円滑な運用を可能にするために,今後も,制度の運用並びに制度及びシステム技術の内容について,同種の漏洩事例を含む,制度の運用に伴う弊害防止に向けた普段の検討を継続し,必要に応じて改善を重ねていくことが望まれる」との指摘がなされていた。さすがに,後を絶たない事故事例を無視することはできなかったのであろう。

2 横浜地方裁判所の不当判決に対しては,当然,控訴をした。一審原告は,230名であり,控訴人は179名となった。

 今後は,控訴理由書を作成して提出することとなるが,それ以外にも上記の情報公開請求,審査請求により追加特定された行政文書を踏まえた控訴審準備書面,一審の審理終結以降に新たに発生した事故事例についての控訴審準備書面も提出する予定である。

3 控訴審では,逆転違憲判決を勝ち取るべく,マイナンバー違憲訴訟神奈川弁護団は,不当判決に負けずに民衆とともに立ち上がっている。

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

2020.04.14更新

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投稿者: 川崎合同法律事務所

2020.04.01更新

1 多摩川からの逆流による浸水被害

 2019年10月12日、日本列島を襲った台風19号は、多摩川沿いに沿って南北に長い川崎市にも大きな浸水被害をもたらした。市内の住家被害は、全壊38件、半壊941件、一部損壊167件、床上浸水1198件、床下浸水379件に及んだ。市内の浸水被害の多くは、市内から多摩川へ注ぐ5か所の排水樋管のゲートが閉じられなかったため、台風によって高水位に達した多摩川から市街地へ逆流した泥水が原因で、110haもの広範な地域を浸水させた。排水樋管のゲート開閉の管理をしていたのは川崎市当局である。市当局が排水樋管のゲートを閉じていれば、多摩川からの逆流による被害は生じなかったであり、市は責任を問われうる立場にある。

2 川崎市の不合理な排水樋管のゲート操作

 川崎市当局は、台風直後の市民に対する説明会から一貫して、排水樋管のゲートを閉鎖しなかったのは、市の策定したゲート操作手順書に従ったもので、問題なかったと説明してきた。しかし、そもそも、川崎市の各排水樋管操作要項では、樋管のゲート操作は逆流防止を目的としている。当時、台風の関東地方接近によって多摩川の水位の上昇と逆流の発生は予見でき、現に、川崎市当局は多摩川の水位上昇による逆流の発生を確認していた。それにもかかわらずゲートを閉じなかった判断はあまりに不合理で、被災者には到底納得できない説明であった。「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」を立ち上げ、市に対して第三者検証委員会による原因究明と、賠償、再発防止を求めて活動をしている。

3 第三者不在の検証委員会の設置と自己弁護の検証結果

 これに対して、川崎市は、第三者委員会を設置せず、副市長を委員長とする行政内部で検証委員会を立ち上げ検証を開始した。賠償責任を負う可能性のある一方当事者の川崎市が主体となった自己検証によっては、公正な検証がなされるかはなはだ疑問であった。神奈川県弁護士会等の法律家団体も、川崎市に対して、改めて第三者検証委員会を設置などを求める要望を発表したが、結局、川崎市はこれに応じないまま、本年3月に発表した検証結果では、自らの責任を免れる結論に導こうとしている。

4 逆流防止の目的を見失っていた排水樋管ゲートの操作手順書

  そもそも、逆流防止のために設置された排水樋管のゲートが、なぜ今回現に逆流発生時に閉鎖されなかったのか。それは、ゲートの操作手順書が、川崎市内に「降雨または降雨の恐れのある場合はゲート全開を維持する」ことを前提としていたからである。この規定は、排水樋管のゲートを閉じると市街地に降った雨が多摩川に排出できなくなり、過去に内水氾濫を起こしたことから設けられた経緯がある。しかし、これでは、今回のように多摩川の水位が上昇し市街地より高くなって逆流が生じても、降雨がある限り、逆流による浸水被害は看過するしかかなく、被害を拡大させる結果となる。市の判断は、内水氾濫を恐れるあまり、本来の逆流防止というゲートの操作目的を見失い、被害を拡大させたのである。

5 既往最高水位を超える台風との言い逃れに対する反論

 川崎市の検証委員会は、今回の台風による多摩川水位の上昇が、既往最高水位を超えた最大であることなどから、逆流発生の予見可能性及び回避可能性がなかった結論を導こうとしている。しかし、これまでも、多摩川が氾濫危険水位を超え浸水被害が生じるような降雨が昭和49年以降4回発生していた。加えて、近年の地球温暖化の進行により、海面温度が上昇し猛烈な台風が出現する頻度が増加することが予測できた。これらを踏まえれば、本件台風襲来前から、多摩川水位が既往最高を超えて、少なくとも多摩川の安全の確保が要求される「計画高水位」まで達し、逆流のよる被害が生じることが予見可能性であり、速やかに対策を講じていれば被害は回避・軽減可能であった。

6 地球温暖化時代に改めて問われる都市水害に対する法律家の役割

 古来より日本は水害列島であるところ、今回の水害は川崎の多摩川近接地域の都市開発と深く関係する。今後、近年地球温暖化の影響により水害の激甚化が顕著となり、再び同規模またはそれ以上の水害起こりうる。法律家として、被災者の生活を再建し、市民が水害の危険に脅かされず安心して暮らせる街とするため、原因究明と再発防止を求めていく。

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

2020.04.01更新

1 多摩川からの逆流による浸水被害

 2019年10月12日、日本列島を襲った台風19号は、多摩川沿いに沿って南北に長い川崎市にも大きな浸水被害をもたらした。市内の住家被害は、全壊38件、半壊941件、一部損壊167件、床上浸水1198件、床下浸水379件に及んだ。市内の浸水被害の多くは、市内から多摩川へ注ぐ5か所の排水樋管のゲートが閉じられなかったため、台風によって高水位に達した多摩川から市街地へ逆流した泥水が原因で、110haもの広範な地域を浸水させた。排水樋管のゲート開閉の管理をしていたのは川崎市当局である。市当局が排水樋管のゲートを閉じていれば、多摩川からの逆流による被害は生じなかったであり、市は責任を問われうる立場にある。

2 川崎市の不合理な排水樋管のゲート操作

 川崎市当局は、台風直後の市民に対する説明会から一貫して、排水樋管のゲートを閉鎖しなかったのは、市の策定したゲート操作手順書に従ったもので、問題なかったと説明してきた。しかし、そもそも、川崎市の各排水樋管操作要項では、樋管のゲート操作は逆流防止を目的としている。当時、台風の関東地方接近によって多摩川の水位の上昇と逆流の発生は予見でき、現に、川崎市当局は多摩川の水位上昇による逆流の発生を確認していた。それにもかかわらずゲートを閉じなかった判断はあまりに不合理で、被災者には到底納得できない説明であった。「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」を立ち上げ、市に対して第三者検証委員会による原因究明と、賠償、再発防止を求めて活動をしている。

3 第三者不在の検証委員会の設置と自己弁護の検証結果

 これに対して、川崎市は、第三者委員会を設置せず、副市長を委員長とする行政内部で検証委員会を立ち上げ検証を開始した。賠償責任を負う可能性のある一方当事者の川崎市が主体となった自己検証によっては、公正な検証がなされるかはなはだ疑問であった。神奈川県弁護士会等の法律家団体も、川崎市に対して、改めて第三者検証委員会を設置などを求める要望を発表したが、結局、川崎市はこれに応じないまま、本年3月に発表した検証結果では、自らの責任を免れる結論に導こうとしている。

4 逆流防止の目的を見失っていた排水樋管ゲートの操作手順書

  そもそも、逆流防止のために設置された排水樋管のゲートが、なぜ今回現に逆流発生時に閉鎖されなかったのか。それは、ゲートの操作手順書が、川崎市内に「降雨または降雨の恐れのある場合はゲート全開を維持する」ことを前提としていたからである。この規定は、排水樋管のゲートを閉じると市街地に降った雨が多摩川に排出できなくなり、過去に内水氾濫を起こしたことから設けられた経緯がある。しかし、これでは、今回のように多摩川の水位が上昇し市街地より高くなって逆流が生じても、降雨がある限り、逆流による浸水被害は看過するしかかなく、被害を拡大させる結果となる。市の判断は、内水氾濫を恐れるあまり、本来の逆流防止というゲートの操作目的を見失い、被害を拡大させたのである。

5 既往最高水位を超える台風との言い逃れに対する反論

 川崎市の検証委員会は、今回の台風による多摩川水位の上昇が、既往最高水位を超えた最大であることなどから、逆流発生の予見可能性及び回避可能性がなかった結論を導こうとしている。しかし、これまでも、多摩川が氾濫危険水位を超え浸水被害が生じるような降雨が昭和49年以降4回発生していた。加えて、近年の地球温暖化の進行により、海面温度が上昇し猛烈な台風が出現する頻度が増加することが予測できた。これらを踏まえれば、本件台風襲来前から、多摩川水位が既往最高を超えて、少なくとも多摩川の安全の確保が要求される「計画高水位」まで達し、逆流のよる被害が生じることが予見可能性であり、速やかに対策を講じていれば被害は回避・軽減可能であった。

6 地球温暖化時代に改めて問われる都市水害に対する法律家の役割

 古来より日本は水害列島であるところ、今回の水害は川崎の多摩川近接地域の都市開発と深く関係する。今後、近年地球温暖化の影響により水害の激甚化が顕著となり、再び同規模またはそれ以上の水害起こりうる。法律家として、被災者の生活を再建し、市民が水害の危険に脅かされず安心して暮らせる街とするため、原因究明と再発防止を求めていく。

以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

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