ケーススタディー

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2017.11.10更新

1 辞表撤回の相談


  13年ほどの前の事件です。「辞表を提出してしまったが、撤回をしたい」というご相談を受けました。定年が近い方で、いま辞めると、退職金が1000万円近く減らされるということでした。
    会社から一方的に解雇されたときは、従業員の地位があることを争うことができますが、自ら辞表を提出してしまった場合は争いようがないというのが弁護士の常識でした。


 依頼者との論争


  私も渋い顔をして「無理です」と答えたのですが、付添の先輩たちが、「彼が辞表を提出したのは、辞表を提出しなければ解雇すると言われたからで、脅されて辞表を提出したのにそれを撤回できないのはおかしい」と反論しました。
   その程度で脅迫になるかなと思いましたが、ご相談者の話を聞いているうちに、ご相談者は解雇を避けるために辞表を提出したのであり、その解雇に理由がなければ、辞表提出は動機に誤りがあり、真意に基づくものではないとして、無効を主張することが可能ではないかと思うようになりました。


3 錯誤無効の論理
   誤って意思表示をした場合、「錯誤」に基づく意思表示として無効を主張できるとの規定が民法にあります。これを「錯誤無効」といいます。
   ただ、無効を主張できるのは、相手がその錯誤を知っていた場合です。依頼者の場合、使用者から「辞表を提出しなければ解雇になる」と言われて辞表を提出したのですから、使用者は、依頼者がなぜ辞表を提出したか、辞表を提出した動機を知っていたはずです。解雇事由がないことを立証できれば、無効を主張できると思いました。


4 訴状の提出
   当時、錯誤無効を争ったケースは稀でした。裁判所が相手にしてくれるかどうか不安はありました。
    ただ、依頼者は中学を出て就職し、働きながら夜間大学に学ぶなど研鑽を積み、立派な業績を残した人でした。会社が依頼者に辞表を書かせたのは、退職金を節約するためではないかと疑われました。依頼者たちの話を聞いているうちに、何とかしなければという思いにかられました。そして、訴状を書き上げ、最後は確信をもって訴状を裁判所に提出しました。


5 裁判の結果
    裁判では第一審で見事勝訴し、高裁で和解が成立しました。依頼者は辞表を書いたとき以降の賃金と退職金満額もらって円満に退職となりました。
    後に一審を担当した裁判官と話す機会があったのですが、錯誤無効で判決をするのは勇気がいったと言っていました。この判決は当時の法律雑誌にも紹介されました。
    勝利が確定した後、依頼者と私で少しずつお金を出し、支援してくれた先輩方を招待して、一泊温泉旅行をしたことが良い思い出となっています。


6 この事件で学んだこと
    私が事件を通して学んだのは、専門家として無理と思っても依頼者の話は一生懸命聞くべきだし、理不尽だと思えば正そうという勇気と情熱が重要ということです。       

                              以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

2017.11.10更新

1 辞表撤回の相談


  13年ほどの前の事件です。「辞表を提出してしまったが、撤回をしたい」というご相談を受けました。定年が近い方で、いま辞めると、退職金が1000万円近く減らされるということでした。
    会社から一方的に解雇されたときは、従業員の地位があることを争うことができますが、自ら辞表を提出してしまった場合は争いようがないというのが弁護士の常識でした。


 依頼者との論争


  私も渋い顔をして「無理です」と答えたのですが、付添の先輩たちが、「彼が辞表を提出したのは、辞表を提出しなければ解雇すると言われたからで、脅されて辞表を提出したのにそれを撤回できないのはおかしい」と反論しました。
   その程度で脅迫になるかなと思いましたが、ご相談者の話を聞いているうちに、ご相談者は解雇を避けるために辞表を提出したのであり、その解雇に理由がなければ、辞表提出は動機に誤りがあり、真意に基づくものではないとして、無効を主張することが可能ではないかと思うようになりました。


3 錯誤無効の論理
   誤って意思表示をした場合、「錯誤」に基づく意思表示として無効を主張できるとの規定が民法にあります。これを「錯誤無効」といいます。
   ただ、無効を主張できるのは、相手がその錯誤を知っていた場合です。依頼者の場合、使用者から「辞表を提出しなければ解雇になる」と言われて辞表を提出したのですから、使用者は、依頼者がなぜ辞表を提出したか、辞表を提出した動機を知っていたはずです。解雇事由がないことを立証できれば、無効を主張できると思いました。


4 訴状の提出
   当時、錯誤無効を争ったケースは稀でした。裁判所が相手にしてくれるかどうか不安はありました。
    ただ、依頼者は中学を出て就職し、働きながら夜間大学に学ぶなど研鑽を積み、立派な業績を残した人でした。会社が依頼者に辞表を書かせたのは、退職金を節約するためではないかと疑われました。依頼者たちの話を聞いているうちに、何とかしなければという思いにかられました。そして、訴状を書き上げ、最後は確信をもって訴状を裁判所に提出しました。


5 裁判の結果
    裁判では第一審で見事勝訴し、高裁で和解が成立しました。依頼者は辞表を書いたとき以降の賃金と退職金満額もらって円満に退職となりました。
    後に一審を担当した裁判官と話す機会があったのですが、錯誤無効で判決をするのは勇気がいったと言っていました。この判決は当時の法律雑誌にも紹介されました。
    勝利が確定した後、依頼者と私で少しずつお金を出し、支援してくれた先輩方を招待して、一泊温泉旅行をしたことが良い思い出となっています。


6 この事件で学んだこと
    私が事件を通して学んだのは、専門家として無理と思っても依頼者の話は一生懸命聞くべきだし、理不尽だと思えば正そうという勇気と情熱が重要ということです。       

                              以上

投稿者: 川崎合同法律事務所

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