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2020.03.24更新

1 本日,横浜地裁第7民事部は,株式会社日立製作所(以下「日立」)の課長職である原告が被告日立に対し、日立が「黒字リストラ」の一環として行ってきた個別面談による退職強要、退職拒否後のパワ-ハラスメント、査定差別につき損害賠償を求めた事件において、日立が個別面談で違法な退職強要を行ったことを認定し、日立に対し損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡した。
2 財界・政府は、1990年のバブル崩壊後、「株主のための企業」に転換すると称し企業の技術力や人的力量、働く人の生活の向上ではなく株価の上昇を第一義とした構造改革を推進してきた。このため「コスト削減を急速に進め、帳簿上の黒字を増大する」ことに邁進してきた。コスト削減推進の中核は労働者の解雇、非正規化であった。近年、この傾向は加速し、より利益を上げるための「黒字リストラ」が公然と唱えられるようになった。日立においても「世界で闘える事業」として営業利益が5%に達しなければ更なる利益を出すために整理解雇を行うという方針が事実上掲げられた。しかし、判例・裁判例においては、企業が経営難で整理解雇する場合においても、①人員整理の必要性、②解雇回避の努力義務、③解雇対象者選定の合理性、④解雇手続の妥当性,という4要件を充たすことが解雇の要件とされている。「黒字リストラ」は①の要件すら充たさない。そこで、日立は、確立された解雇規制を脱法するため様々な形で「退職強要」を行ってきたのである。
3 本件の第1の争点は、原告に対する面談が正当な営業上の目的に基づくものであったか、退職強要のためのものであったかであった。本判決は、日立が原告に早期退職を迫り、断られると仕事を取り上げ、「あなたの能力を生かせる仕事は会社にはない。社内にどうしても残るというなら自分で見付けろ。」「能力がなくても高い給料を払ってくれるのが魅力的ですというならそう言って欲しい」などと侮辱し「(退職以外選択肢がないことを)認識するまで面談を続けよう」と7回にもわたる面談で退職を強要したことを正当に認定した。
第2の争点は、原告がユニオンに加入し面談が中止された後原告に対し行われた会社の言動は単に業務上必要なものであったか、パワーハラスメントであったかであった。本判決は、公然と多数の社員の前で原告を侮辱し、社内メールなどで原告の名を毀損した会社の行為について「部下を多数人の前で叱責することにも類し、部下に対する指導に際しての冷静さや配慮が十分でない」と問題としながらも、違法性については否定した。
第3の争点は退職面談後突如大きくランクを下げられた賃金査定・一時金査定が正当な査定か、退職強要目的のものか否かであったが、本判決はこの点については、審理中から裁判所も正当性に疑問を投げかけていたにも拘わらず「会社の裁量の範囲内」とする不当な認定を行った。
4 本判決は、大企業会社とりわけ電機産業における50万人もの「電機リストラ」につき現経団連会長を輩出した日立が「黒字リストラ」を強行し、判例上確立してきた解雇規制を脱法する「退職強要」のために行った「面談」を明確に断罪した点において極めて大きな意義があるものである。
5 原告弁護団は、本判決の重要な意義を大きな力とし不十分点を克服し、憲法が保障する労働者の生存権・勤労の権利を実効的なものとするために、判例上確立してきた解雇規制の脱法を許さず、最終的な原告の救済と違法な「黒字リストラ」の流れの転換のため、今後もたたかい抜く決意である。
                                                                                           2020年3月24日  日立電機黒字リストラ事件原告弁護団

投稿者: 川崎合同法律事務所

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